2016年9月5日月曜日

2. 首相の言い分

★「自民党は改憲する党なので、改憲するんです」

参議院選挙後、TV各社による首相インタビューの中に共通して、「選挙の争点にしなかった憲法改正についても民意を得たと考えるのか」との質問があった。それに対して安倍首相は、次のように答えた。

   自民党は「改憲したいと考えている」そういう人たちが集まった党である。
   そうした考え方は、政権公約の中にも入っているので、
   当然、それを前提として票は入れてもらったと考えている。
   だから、なぜ改憲の必要があるのかについては、国民に語るつもりはない。

 えっ、首相は、自民党に投票したってことは、憲法改正に賛成だってことになるって、言ってるの?

 前項で取り上げた参院選直前の新聞各社の世論調査では、国民に「改憲」についてもたずねている。その数字は、内閣支持層においても、改憲については「反対」「もっと議論を深めるべきだ」と考える人々が多数存在するということを示している。


質問項目

朝日新聞

/

毎日新聞

/20

日経新聞

/28

内閣支持率  支持

       不支持

41

36

42

39

47

39

憲法改正の議論は深まっている(改正賛成)

     議論は深まっていない(改正反対)

20

62

36

44

 


 
   首相はそういう人々に対して、選挙で争点にしてもしなくても、「憲法改正は織り込み済みなんだよ」と言ったことになる。
 

★憲法改正は、もう「条文を考える段階」というのが首相の言い分 

 さらに首相は、自民党草案はもう公開しているので、国民はその内容を認識しているはずだという見解を示した。そして、あとは憲法調査会で検討し、国会内で討議し改訂案を発議するだけだと言う。

   「改憲に対してイエスかノーかということを問題にするのは、もうあまり意味がない」
   「今はどの条文をどう変えるかが問題」
   「自民党の改憲草案はもう公開しているんですから」

 この首相の姿勢は、憲法改正発議のプロセスが、昨年の安保法制についての国会審議の二の舞になることを予感させる。丁寧な説明を求めた国民に対し、法案適用の事例が荒唐無稽であったり、質問に対し誠実に答えなかったり、質問者のミスをあげつらって答えなかったりという答弁の姿勢が国民の怒りを生み、10万人を国会前に呼び寄せたあの国会審議である。
 

★安倍首相は働き者なので、憲法改正の展開は早い

 両院で2/3を確保してしまった今は、審議はあの時以上に強引に進められ、あっという間に国民投票という展開になる可能性がある。
 安倍首相は働き者だ。歴代の首相には、何をしたのかわからなかった人も多い中、方法・内容の是非を抜きにして考えるならば、経済政策にしろ、外交政策にしろ、次々と手を打ち、自らが決め、精力的に活動しているという感がある。
 だから、安倍首相が意欲を燃やしている以上、憲法改正のための国民投票がやってくるのは、予想以上に早いと見なければならない。
 

★国民投票はやり直しがきかない

 今年の6月23日、EU離脱を問うたイギリスの国民投票では、離脱決定後の1週間で、国民投票のやり直しを求める署名が400万人分にも上った。国民投票に参加したのは、全有権者4650万人の72%、3365万人であり、その1割以上の人々がやり直しを求めたのである。
 離脱賛成51.9%、反対48.1%と、僅差で離脱が決定したのであるが、まさか離脱するとは思わなかったので軽い気持ちで投票してしまったとか、ウソの情報を流していた離脱派にだまされたとか、公開する人々が多かったという。賛成と反対の差はわずか3.8%、人数にして127万人である。国民が離脱の意味をもっとよく考えていたら、また正しい情報を得たいたなら、残留派が勝っていただろうと思わせた。
 イギリス政府は、「投票における民意を尊重する」として、国民投票のやり直しはしないとの声明を出した。イギリス政府はその根拠を示していないが、やり直しを認めてしまうと、国民投票という方法そのものの仕組みの信頼性を低下させ、今後行われるたびにやり直す可能性を残す恐れを生むことになるためではないかと思われる。
 国民投票はやり直しがきかないのである。

★イギリスの轍を踏んではならない

国民投票は、法案や政策を立案審議するための議員を選択する普通の選挙と違って、国民が直接判断するものである。日本では、国民投票は憲法の改正のみに規定されている。憲法は、法案や政策の基盤になるものであるので、その改正は国が進む方向を大きく左右する。改正するにしてもしないにしても、私たち国民はその内容を十分に検討して、自分の判断を後悔しないようにしなければならない。
 「軽い気持ちで」とか「ウソの情報にだまされて」投票するとか、「わからないから」と棄権したりすることの無いようにしなければならない。自信を持って、自分で判断できるようする必要がある。現行憲法と改正草案について調べ(研究し)、自身の見識を持たなければならないということだろう。
 国民投票は、簡単にやり直しはできない。
 私たちは、イギリスの轍を踏んではならない。