2017年4月5日水曜日

11.新“お役所仕事”考

かつて“お役所仕事”は「融通がきかない」の代名詞だった・・・


 ルール通り、前例通りにやる。つまり、状況に応じて「融通をきかせる」というようなことはしない。しかも対応が遅いというのが“お役所仕事”に対するこれまでの一般的認識であった。それはある意味で当然のことだと言える。その場その場で対応が違うというのでは不公平になるからである。また、律儀に受け付け順に対応するので、急いでいるものにとっては「対応が遅い」と感じられるのだ。
 少しは当事者の事情を酌量してほしい、ルールを逸脱しない範囲での裁量ぐらいしてくれてもいいじゃないか、と思うのが人情だ。しかし、“お役所”ではルールを盾に取り、書類の不備などを問題にして門前払いにするような対応が多いため、辞書に「役人根性:融通がきかず杓子定規で~」と書かれてしまうようなことになっているのである。

 ところが、今年2月中頃から国会の中心議題になっている“森友学園事件”では、役所の対応の様相が異なる。対応した役所のすべてが大変融通をきかせたようなのである。しかも迅速に。
 融通をきかせた内容というのは、森友学園の求めた国有地の払い下げと私立小学校の認可に対して、役所というのは財務省理財局、国土交通省大阪航空局、そして大阪府私学課である。

 *該当の国有地は、大阪府豊中市の国道沿いの8770㎡、評価額9億5600億円の土地。


異例の対応の連続で、小学校建設のハードルがクリアされた


 小学校開設を望んでいた森友学園(幼稚園・保育園を運営)が、その設置認可を得るためには、クリアしなければならない二つの高いハードルがあった。
 ①土地の自己所有 : 校庭は借地でもよいが、校舎は借地の上には建てられない。
 ②自己資金による土地取得と校舎建設 : 借入金ではいけない。
 小学校建設に必要な国有地の取得には9億円超、校舎建設には10数億円の費用がかかる。
当時純資産が4億円しかなかった森友学園には、小学校開設など到底無理な話であった。しかし、このハードルは驚くべき速度で、次々と役所が繰り出した異例の対応によりクリアされていった。



特別な力学が働いた・・・


 財政不安の森友学園が異例の速さで財務局提示価格のわずか10数%で国有地を取得した経緯を見て、自らも国有地の払い下げを受けての大学開設に苦労した船田元氏(衆議院議員)は、「特別の力学が働いたと思わざるを得ない」と、自身のメールマガジンで述べている。

 特別な力学とは何か。それは、安倍首相もしくはその周辺の関与、もしくは役人たちの安倍首相に対する「忖度(そんたく)」である。なぜなら、森友学園が土地取得に動いている2012年から2015年の間に、森友学園において安倍首相夫人が3回も講演をし、安倍氏自身の講演も予定されていたからである。
    2012年9月  安倍晋三氏講演予定(総裁選出馬のために取りやめ)
    2014年1月  昭恵夫人講演
    2014年12月 昭恵夫人講演
    2015年9月  昭恵夫人講演

 忖度というのは、「他人の心中を推しはかること。推察」(広辞苑)ということである。意味どおりのことであるなら、別に悪いことではない。自分勝手なふるまいをする者が、「ひと(他人)の気持になって考えなさい」と説教されるぐらいで、むしろ忖度は、人として持っているべき行動要素であると言ってもよいぐらいものである。
 問題は、誰が、誰に対し、どのような姿勢で「忖度」するのかということである。

 予算委員会では、安倍首相夫人が名誉校長ということなので、首相が望む方向の事案だと考え、役人たちが忖度したのではないかと野党が追求した。しかし、安倍首相とその周辺はそれを否定する。この森友問題の経緯においては「忖度の入り込む余地はなかった」と主張する。「霞が関には忖度するような官僚はいない」とまで言う。

筋が通らぬ役人たちの言い分


 本当に忖度はなかったのか? では、国有地払下げ経験者に「特別の力」を感じさせる異例の対応の連続は、なぜ起こったのか。森友学園に対する国有地払下げにかかわりのあった役人たちや首相の周辺は、対応はすべて適切であったとする。しかしその見解に多くの国民(日経新聞の世論調査では74%)は納得していない。

 国民の財産である国有地、それをいかに高い価格で払い下げるかが理財局の仕事だ。その理財局が、同じ土地に対してもっと高額の買い取りの申し入れをした大阪音大や豊中市を断り、時をおかずに森友学園に86%引きで売ってしまったというのは、腑に落ちない。
 開校に間に合わせるためにとか、風評被害を防ぐためにとかいろいろ理屈をつけているが、相手の事情を配慮しすぎていて、国の仕事としての厳正な審査、厳格なチェックを怠っているとしか思えない。これまでのいわゆる“お役所仕事”とはあまりにも様相が違う。
 入札にもせず、売却価格も公開せず、8億円のごみ処理費用を正しく使ったかどうかも確認もせずにというのは、どうにも筋が通らないのだ。

 これが適切な対応であったかどうかの判断は、交渉記録によって明らかにされるはずであるが、その交渉記録は契約が成立したので廃棄したという。しかし、森友への土地売却は10年分割払いであるから、契約は終了していないのではないか。10年間の間に問題が起こり、終了しない可能性もある。国有財産の払い下げともなれば、会計検査の対象となるものであるから、その関係資料はそう簡単に処分するはずはないと、元官僚たち、特に財務省関係者は強く言っている。
 もし本当に廃棄したのであれば、見られては困るものだからだと考えるのが自然だろう。

 自民党は、証人喚問での籠池氏に偽証があったとして、その証拠を得るために国政調査権を発動しようとしているが、国政調査権の対象とすべきはむしろこの土地取引にかかわった財務省、国土交通省の関係各局だというのが、私を含めて大方の国民の考えているところだろう。
 
*国政調査権(日本国憲法第62条より)
 両議院は、各々国政に関する調査を行い、これに関して、証人の出頭及び証言ならびに記録の提出を要求することができる。


本当のお役所仕事を


 役所における忖度の実態については、元官僚たちがTV局の取材や自身のブログで「忖度は日常的にある」と語っている。「上司が何を考えているのか忖度できなようなものには、仕事ができない」とまで言う人もいる。ただ、忖度した後の行動のしかたが問題だという。
 元経産省官僚の岸博幸氏(慶応大学大学院教授)は、「権力者の知り合いの案件だからこそ、手心を加えてそれが発覚したら大変なことになるので、従来の案件以上に慎重にかつ厳格に手続きを進める」というのが、官僚としてのあるべき姿であると言う。
 
 もっと言えば、公務員が本当に「忖度」すべきは一般国民、もしくは地域住民であり、そして国の行く末なのであって、上司や有力者ではないのである。それが“本当のお役所仕事”なのである。この事件を機に、そのことを“お役所”に働く人々は、肝に命じてもらいたい。
 辞書の次の版の「忖度」の記述に、「上司もしくは権力者の望むところを推測し、与えられてもいない依頼や指示を先取りして実行することを言う」などという意味が付け加わらないことを、切に願う。








 
  





 


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